nicona's note.

- フリーランス・グラフィックデザイナーのつれづれBlog -

*アートとデザインの違いってなんだろう?*

11月も終わりに近づき、ぐっと寒さが増してきましたね。さて、前回のブログで、町やフィールドでの言語に頼らないサイン計画について書きました。今日は別の視点を持ち込んで、「アートとデザインの違い」を入り口に、デザインが果たすべき役割についての考えをまとめてみようと思います。 

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問題提起型のアート、問題解決型のデザイン

先日、アートハッカソンなるもの(KENPOKU Art Hack Day)に参加してきました。参加者にはアーティストやプログラマー、研究職の方が多く、デザイナーは少数派。その場でチームを組んで、期間内にひとつのアート作品をつくるというイベントです。

その中で「アートは問題提起型、デザインは問題解決型」いう解釈があり、なんとなく自分の中で腑に落ちるものがありました。

アート作品には、作者が感じた世の中への疑問や強調したいことなどのメッセージがあり、見る人に考えるきっかけを与える「問題提起」をします。そして見る人の中で、その人なりの解釈とともに心に残って、ものの見え方を変えてくれることもあります。

一方、デザインは何か問題なり課題なりがある中で、対象の見え方や感じ方をコントロールすることにより「問題解決」をします。ロゴは企業やブランドの思想を視覚化し、サインは人を誘導し、広告は商品や対象の魅力を伝える、といったように。

その2つの役割の違いがわかっていると、たとえばデザインをアートのように扱ってしまい、主観性が際立って機能面が弱くなるといったことが防げます。アートが必要とされる場面、デザインが必要とされる場面、またその両方が必要とされる場面。もともと担う役割が違うことを意識することで、それぞれの力が存分に発揮されるのではないかと思います。

機能するデザイン

また、9月に美術館などのサイン計画を数多く手がけるグラフィックデザイナー色部義昭さんの展示(色部義昭:WALL)をたまたま見ることができました。そこでは東京オリンピックに向けて、東京の街区表示板(町の壁などで見かける住所がかかれた小さい表示板)のデザインを統一するというプロジェクトについて、様々なプロセスが示されていました。現在は書体もフォーマットも色もバラバラな街区表示板を、日本への外国人旅行客が増えることを前提に、統一したデザインに一新しようという大規模な計画です。

視認性と気品を兼ね揃えたオリジナル書体の制作(そこからか!)をはじめ、外国人を迷わせない英語表記の入れ方、さまざまな素材の外壁に合う表示板の色、風雨にさらされることを想定した素材・加工法の選定など。普段あまり気に留めないこの小さな標識に、これだけの要素が詰まっていたのかと驚きました。その丁寧なシステム作りが、何十年と町の中で機能し続ける案内表示としての強度を生む。紛れもないデザインのプロの仕事が、そこに凝縮されていることに感動しました。

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デザインというと、ひらめきや感覚で出来ていると思われる方も多いと思います。もちろん、それが求められるケースもあるでしょう。しかし、いろいろな場面で使われていくことのできる展開力あるデザインは、丁寧なプロセスを踏んで生まれることを改めて感じました。

ではまた、にこっと笑顔でお会いしましょう。